流量計とシステムソリューションのオーバル

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水素計測の技術で脱炭素化の未来を支える
-オーバルのキーパーソンに聞く-

2024年04月15日

サステナビリティインタビュー

脱炭素社会実現のカギとなる次世代エネルギーとして、大きな期待がかかっている「水素」。日本でも、官民を挙げて、水素の利活用に向けた取り組みが推進されている。

そのような中、オーバルでは、産業界のマザーツール「流量計」の専業メーカーとして培ってきた確かな技術を活かし、精度の高い水素流量の計測に注力してきた。脱炭素化・カーボンニュートラルを実現するため、オーバルだからこそ提供できる新たな価値とは――。水素計測のキーパーソン2人に話を聞いた。

培った計測技術で水素社会の実現を後押し

 

気候変動をはじめとする地球環境悪化を食い止めるため、世界中で脱炭素への取り組みが活発化している。CO2排出の多い化石燃料からの脱却を目指す上で注目が集まっているのが水素だ。燃焼時にCO2を排出しないクリーンなエネルギー資源として、世界各国で水素の利用拡大が進められている。

日本でも、「水素基本戦略」が策定され、世界に先駆けて水素社会の実現を目指す行政方針が打ち出された。これを受け、さまざまな産業分野において、水素の利活用のための開発事業が動き出している。

水素のサプライチェーンは、大きく「つくる(製造)」「はこぶ(輸送)」「つかう(利用)」の3つに分けられる。この3つのうち、どの領域においても必要不可欠なのが、水素の流量計測だ。

オーバルは、「確かな計測技術で、新たな価値を創造し、豊かな社会の実現に貢献する」という経営理念に基づき、幅広い気体・液体の計測に対応する流量計を数多く生み出してきた。その実績と技術を活かし、一般的に難しいといわれる水素の流量計測にも積極的に取り組んでいる。

業界の先駆けとなる水素流量計への取り組み

オーバルの水素計測への取り組みは、2000年代初頭に遡る。2005年に開催された「愛・地球博」では、会場間を走る燃料電池バスに使われる、水素ガスステーション内の高圧水素流量計を手掛けた。マーケティング部部長の石川栄樹氏が当時を振り返る。

 

「限られた期間でそれまでにないものを完成させなければならず、法規制への対応など、大変なことも多々ありました。しかし一方で、さまざまな流体の計測を通して培ってきた技術で、水素社会の実現に貢献できるという手応えを得ました」

 

近年では、次世代エネルギーとして水素への注目が高まるのに伴い、水素計測のニーズが増えているという。特にここ12年で、水素計測用流量計に関する問い合わせは倍以上に増加したと石川氏は語る。中でも多いのが、燃料電池や水素エンジン、水電解、バーナー、燃焼炉、水素キャリア、パイプラインといった用途におけるニーズだ。

 

「現在、水素発電や化学プラント、その他の工場など多種多様な分野で、水素の実用化に向けた実証実験が進められています。その際に重要なのが、水素流量の計測と制御です。水素を適切に計測できなければ、実験の信頼性が根底から崩れてしまうからです。しかし、水素を正しく計測できる機器は、他の流体に比べて、一般的にはまだ少ないのが現状です。オーバルでは、容積流量計、熱式流量計、コリオリ流量計、渦流量計など、さまざまな計測原理の流量計ラインナップを取り揃え、お客様の水素計測ニーズに対して最適なご提案が可能です。流体計測専門メーカーとして、水素計測機器の選定からシステムアップの設計、施工までワンストップで対応できるのが強みです」

水素計測の難しさにもきめ細かいカスタマイズで対応

水素は、他の物質に比べて計測が難しいといわれている。それは、「非常に密度が小さく軽い」という水素の特性によるものだ。「その難しさも、複数の計測原理による流量計の中から、最適なものを選定することで解決できます」と語るのは、標準製品のカスタマイズ対応や、技術・設計面での顧客支援に携わる技術部の髙梨大氏だ。

 

 

「一般的に低圧の水素計測が難しいといわれるのは、その密度の小ささゆえに渦が発生しにくいことや、超音波を減衰させやすい特性があるなど、計測原理によって不利となる要素があるためです。しかし、例えば私が担当している熱式流量計なら、密度の小さな気体でも問題なく計測できます。そのほか、使用条件よっては、コリオリ流量計など他の計測原理のものが適していることもあります。

さらに、オーバルでは既存の流量計のラインナップからご提案するだけではなく、お客様のご要望に合わせたカスタマイズが可能です。お客様のニーズを満たすにはどのように手を加えればいいか。その上で、高精度かつできるだけコストを抑えるにはどうすればいいか。頭を悩ませることも多いですが、その難しさがやりがいにもつながっています」

 

 

また、水素と同じように注目を集めている資源がアンモニアだ。アンモニアは、水素と同様、燃焼時にCO2を排出しない。加えて、「水素を運搬するための媒体、いわゆる“水素キャリア”としての利用可能性も高い」と石川氏は言う。

 

「脱炭素化に向けて、アンモニアに関するニーズも増えてきています。近年では、アンモニアを燃料として利用するための研究が始まっているほか、石炭火力発電の燃料の一部をアンモニアに置き換えて混焼させることでCO2排出量を削減する技術の開発も進められています。さらに話題を集めているのが、“水素キャリア”としてのアンモニア利用。アンモニアは、『NH3』という化学式からもわかるように、水素(H2)を含む物質です。取扱いが比較的容易なアンモニアの形で運び、その後再び水素に戻せば、水素を単独で輸送するよりもコストがかかりません。これらの技術についても、実証実験を進める中で流体の計測は必要不可欠ですから、流量計の果たす役割は非常に大きいと感じています」(石川)

 

 「アンモニアは、水素に比べると流量計測の難易度が低いというメリットもあります。ただ、それまで化石燃料を計測していた流量計を、そのままアンモニア計測に使えるわけではありません。計測する流体が違えば、精度や安全性などを考え、やはり最適な流量計を選ぶ必要があります。水素でもアンモニアでも、お客様のご要望に合わせてどのようにカスタマイズしていくか、というのは、私たちの腕の見せ所ですね」(髙梨)

水素専用の校正設備「OVAL H2 Labo」の開設へ

 

流量計の精度を左右するのが、「校正」と呼ばれる工程だ。校正とは、実際に計測する流体(気体や液体)を流量計に流し、基準器との計測値のズレやバラつきをチェックする作業のこと。この校正が徹底されていないと、正確な計測値を得られなくなってしまうおそれがある。

脱炭素化に本気で取り組むためには、水素計測用流量計のクオリティを今以上に向上させなければならない――。そう考え、オーバルでは、水素専用の校正設備「OVAL H2 Labo」(仮称)の開設を決めた。石川氏が決意を語る。

 

「流量計は、作って設置すれば終わりではありません。きちんと検査、試験をして品質を担保し、さらにその後の運用やメンテナンスにまで携わっていくことが、メーカーとしての当然の責務です。これまでは、比較的微少の水素を測る流量計のニーズが多かったのですが、今後は流量が大きくなってきたり、台数が増えていったりすることも考えられます。そこで、大流量の水素ガスによる流量計校正設備を作ることを決定しました。『OVAL H2 Labo』は、2024年度中に運用を開始する予定です。

このような水素流量計専門の校正設備は、まだ国内では充実していません。ですから、完成後は、自社製品の試験はもちろんのこと、他社製品の校正にも対応する予定です。流量計は機械なので、使い続けるうちに必ず経年劣化が発生します。定期的に精度の高い校正試験を実施することによって、流量計への信頼を維持、向上していきます」

 

 

流量計は、目立たないながらも、産業界のあらゆる分野においてなくてはならない、まさに「マザーツール」だ。その流量計メーカーとして、オーバルは今後どのような役割を果たそうと考えているのか、改めて石川氏に聞いた。

 

「現在は、化石燃料から水素やアンモニアといった次世代エネルギーへの転換に向けた過渡期です。脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな課題がある中で、流量計がそれらを直接解決する手段にはならないかもしれません。しかし、どのような技術開発やものづくりの現場においても、流体を計測する流量計は絶対に必要なものです。水素やアンモニアを利活用するための実証実験も、今後ますます広がっていくでしょう。どんな産業分野の、どのようなニーズにも応えられるように製品ラインナップをさらに充実させ、水素社会の実現を下支えしていきます」

(ライターメモ)
政府が発表した「水素基本戦略」では、2040年までに年間1,200万トンの水素を導入するという具体的な目標が掲げられた。そう遠くない将来、水素が生活や産業活動に日常的に使われる「水素社会」が実現するかもしれない。そんな未来に向けて、水素の計測および制御技術に課された役割は一段と重くなっている。水素やアンモニアといった次世代エネルギーの流量計測に注力する、今後のオーバルの取り組みが期待される。

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オーバルの水素計測用流量計ラインアップ

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