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2026年03月26日
サステナビリティインタビュー

脱炭素社会の実現に向けて、次世代エネルギーとして水素の利活用が進展している。発電や産業用途など、水素は実証段階から商用利用へと移行しつつある。こうした中、エネルギーを社会インフラとして活用するためには生産量・輸送量および使用量を「正しく測る」技術が不可欠となる。
オーバルは、このような背景のもと、2026年2月 水素実ガス流量校正設備「OVAL H₂ Lab(オーバルエイチツーラボ)」を開設した。本設備は、水素を実際に流しながら、大流量で流量計を校正できる国内でも希少な設備だ。
水素計測における「校正」の重要性と新たな設備の開設によって生まれる「付加価値」とは何か。
検査部 部長の若松武史氏に話を聞いた。
水素は、燃焼時に二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして、カーボンニュートラル実現の鍵を握る存在と期待されている。
例えば、
• 天然ガスボイラーの水素焚きへの転換
• 火力発電所での水素混焼
• 産業分野での燃料利用
など、その用途は着実に広がりつつある。
これらの分野では、エネルギーの管理や取引を行ううえで、重要になるのが「水素を正確に測る技術」だ。
若松氏は次のように説明する。

「エネルギーは、どれだけ作ったのか、どれだけ運んだのか、どれだけ使ったのかを正確に把握できなければ、適切な管理や取引が成り立ちません。水素も例外ではなく、むしろ新しいエネルギーだからこそ、信頼できる計測技術が重要になります。」
エネルギーの流れを把握する手段の一つが、流量計だ。流量計は、配管を流れるガスや液体の量を測定する計測機器であり、エネルギー供給の現場では欠かせない存在である。そして、その流量計の精度を維持するために必要なのが「校正」である。
校正とは、実際にガスや液体を流しながら、テスト対象の流量計の測定値を基準器と比較し、測定のズレやばらつきを確認・調整する作業のことを指す。 一般的に、水素用流量計の校正では、テスト用ガスとして空気が使われることが多い。しかし、水素と空気では物性が大きく異なる。
例えば、
• 密度
• 粘性
• 音速
• 熱伝導率
といった性質は大きく異なるため、空気で校正した場合、実際の水素計測では誤差が生じる可能性がある。
「精度の高い水素計測を実現するには、やはり実際の水素、いわゆる“実ガス”での校正が理想です。 しかし、日本国内では水素を実際に流して流量計を校正できる設備は限られていました。 こうした課題を背景に誕生したのが、OVAL H₂ Labです。」
OVAL H₂ Labの最大の特徴は、水素の実ガスを用いた大流量校正が可能な点だ。最大流量は 650Nm³/h。
Nm³/h(ノルマル立方メートル毎時)とは、標準状態に換算した1時間あたりの気体の体積を表す単位で、この設備では1時間に最大650立方メートル相当の水素を流すことができる。 この規模で水素実ガス校正を行える設備は、国内でも数少ない。
また、流量計の校正には「マスターメーター」と呼ばれる標準器が欠かせない。マスターメーターとは、流量計の測定値が正しいかどうかを判断するための“ものさし”となる計測機器だ。OVAL H₂ Labでは、対応流量の異なる5種類のマスターメーターを設置し、幅広い流量域かつ高精度の校正を可能にしている。
さらに、水素は温度変化の影響を受けやすい特性がある。そのためOVAL H₂ Labでは、温度を安定させるための特殊な配管構造を採用している。
「ボンベから出てきた水素は温度が低く、そのままでは室温との差が生じます。室温との差が大きい状態では安定した校正が行えないため、まず熱交換器で温度を室温付近まで調整し、さらにフィンを付けた長い配管を通して室温になじませる工夫をしています。」
こうした設計によって、現在は±1%の誤差範囲である高精度な条件で校正を行うことができる。

5種類のマスターメーター
OVAL H₂ Labの構築は、オーバルにとっても前例のないプロジェクトだった。 設備の設計には、検査部を中心に製造部、システムエンジニアリング部、管理部など、複数の部署が関わった。
「一番の課題は、経験のない設備をゼロから設計することでした。流量、設備規模、安全対策など、どこに重点を置くべきかについて部署ごとに意見が分かれることもありました。」

しかし、それぞれの専門知識を持ち寄りながら議論を重ねることで、安全性と実用性を両立した設備設計を実現した。 また、水素は軽く拡散しやすく、可燃性が高いガスでもある。そのためOVAL H₂ Labの設計では、安全性の確保にも細心の注意が払われた。
例えば、
• 防爆仕様の照明/電源設備
• 水素検知器
• 熱感知器
などを設置し、異常時に迅速に対応できる体制を整えている。 さらに、設備の屋根にはソーラーパネルも設置されており、OVAL H₂ Lab内で使用する電力の一部を太陽光発電でまかなうなど、環境負荷の低減にも配慮した設計となっている。
OVAL H₂ Labは完成したばかりだが、すでに社外からの関心は高く、見学や問い合わせも増えているという。
この設備は、自社製流量計に加え、他社製流量計の校正にも対応している。
「流量計の精度を維持するためには、定期的な校正やメンテナンスが欠かせません。これまで空気などの代替ガスで校正していた流量計も、実際の水素で校正することで、より信頼性の高い調整が可能になります。」
水素社会の実現に向けて、エネルギーの供給・輸送・利用は今後ますます拡大していく。 その中で、計測技術は水素社会の実現を支える重要な要素となることが考えられる。
「水素を正しく測れないことがボトルネックになって、水素社会の実現に影響が生じることは望ましくない。私たちは流量計専業メーカーとして培ってきた知識と経験を活かし、水素計測の信頼性を高めることで、産業界の発展に貢献していきたいと考えています。」

(ライターメモ)
脱炭素社会の実現に向けて、水素エネルギーの役割は今後さらに大きくなっていく。その中で、水素を「正しく測る技術」は、エネルギーインフラを支える重要な要素の一つだ。 OVAL H₂ Labは、大流量の水素実ガスによる校正を可能にする国内でも希少な設備だ。水素計測の信頼性向上に大きく貢献することが期待されている。 流量計メーカーとして培ってきた技術と知見を活かし、水素計測の信頼性を高めることで、産業界の発展と水素社会の実現を支えていくことが期待される。